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Shi Drives Me Wild Vol.03

MJをよく知るデイヴは感じたままに接する。
ひょうひょうとしたそのキャラクターとは裏腹に進撃な視点での発言をする。 それは誰にむけられたものなのだろう。 

MJの子供っぽい作戦は新たなチャレンジャーの登場で大きく予想が覆されることになる。
それぞれがそれぞれの意思でイグニッションをまわす―――――。



カジノブースは中2階に存在し、他のブースとは違った雰囲気作りに勤めていた。
下のブースとは防音ガラスで遮断され、飲み物を販売するカウンターとオープンテラスを意識した作りになっていた。


「めずらしいわね、デイヴがウチに遊びに来てくれるなんて」

まんざら口上というわけでもなさそうだ、照れくささを隠そうとしているのかシステム手帳を開いて「遊んでばかりではないのだ」という仕草でシステム手帳に目を落とす。 ガラスの壁に付いたカウンターにコーヒーの入った紙コップを2つ、2人は並んで立っている。

再開はほんとうに久しぶりだった。 デイヴと呼ばれたこの男、デスクワークが多いせいか、地なのか目つきが悪く少々きつい印象を与えるが、意外に人望のある男のようだ。

フルネームはデイヴ・ダグラスといい、MMYG(モーターマガジンユーゲニズム)社の編集長という肩書きをもつ。
MJとはずいぶんと古い付き合いらしいが、それを知る者は少ない。

デイヴは先程とは打って変わり、和らいだ表情でゴロワーズに火をつける。


「私がプレイ第1号だって、よく分かったわね」の問いにデイヴは、カマをかけただけだったのだが事実であったことを知ると、弾けたように笑い出した。

「なんだよ、昨日と同じパンツはいてるのかお前?」

カマをかけられたことを知り、ムっとしながらも話題を変えることにした。

「新型筐体をインプレッション(体験)してみた感じはどう?」

おかしいのかデイヴはまだ笑っている。


「長くはつづかなかったからなんとも言えないね。 ただMMYG発行のクロスムーヴ誌、チーフとして言わせてもらえばスリップアングルがないものを果たして"リアル"と呼んでいいものか、ロールセンターも低いと思えばロールモーメントが高いしね」

そういいながら右手にゴロワーズのケースを持ち、車に見立てて左手でジェスチャーをしてみせる。


「ウチのかかえてる耳が兎みたいなジャーナリストが言ってたよ、ころがり抵抗にはコーナーリングドラッグって言って曲がる時のほうがグリップはいいんだと、それにはセルフ、、、、なんっつたっけな」

「セルフアライニングトルク」と、補足するMJ。

「あっ、や、それだ、それが発生するからコーナーリングフォースをあずかることができるんだとさ」と、煙草をはさんだ手をふりふり、言い終えるとコーヒーに手をつけた。

ええ、私もそう感じたわとうなずくMJ。


「ただね、そんなことよりも驚いたのは"リアル"の必然性さ」

MJは、経営者としてでなくいちプレーヤーとしての感想を吐露している自分に気付きながらも止められなかった。 いや、止めようともせず、むしろデイヴの反応を見たかった。

デイヴは額に皺を寄せ、眉毛をあげてコーヒーをすすりながらMJの言葉を聞いた。
そしてテーブルにコーヒーを置き、カウンターを背に天上を仰ぎ、手に持った灰皿にコロワーズを押し付けながら口を開いた。


「久しぶりに"ゲーセン"に来てみたらサイバーワイアード施設なんて名に変わってるし、どこのブースもヴァーチャルづくめだ。
いったい何なんだ?これらは。 確かに今の時代、五体満足に"そろえた人間"なんていやしないさ、だからリアルがほしいのか!?
だとしたらお笑いグサだな。 ジパングだとかハイテクの島国だとか呼ばれちゃいるが、俺に言わせればここに住んでる、俺らの人生はすべてヴァーチャルライフ症候群の末期患者かラットでしかないぞ、ハハハハ」

MJはその言葉には経営者として肯定しがたかった。 だが、いちプレーヤーとして、望んだ、それがこの答えなんだろうか?
悲観的に思えるそのなかに自分もいることを分かっていながら、そんなのは非生産的だと考えを押しやってきた。


「ねえデイヴ、私は経営者として娯楽性をほしがるわ。 ううん、リアルを、未体験部分を欲しがる人たちがいれば、私たちは答えるべきだと思うの。 確かにR指定なんかもあって思想的にはよくないとも考えるわ、、、、でも私には決めることができない」

カウンター越しにブースでプレイする人たちを見下ろしながらMJはコーヒーを口に含んだ。 その味は風味がなく、甘く、ミルクっぽく苦渋いテイストでくくられた味だな、とふと思った。


「ああして、皆でひとつの事に熱中できることがなんで悪いのかな」

独り言とも、つぶやくともなくぽつりと述べるMJを横目にデイヴは悪いなどとは毛頭考えてはいなかった。 しかし、こういう場を治外法権だと勘違いした人間と、欲望と娯楽は表裏一体だという事実にはウンザリしていた。


「なあMJ、サイバーワイアードなんて名前を変えても"リアル"じゃなくって、求める物は、実はその先にあるものなんじゃないかな?
もっとも、俺たちは提供する側であって生み出す側じゃないものな、欲求よりも娯楽性なんだと思うぜ、でなきゃ中身は変わらないし、入禁や年齢制限なんて問題も限界あるだろ!?」





「ただ今チャレンジャーを募集しています! 新型筐体設置初日いきなりの9人抜き!! あと1人のチャレンジャーでブルーカーは自動でゲームオーバーです、ここはなんとしても阻止する強力なチャレンジャーの登場を望みたいところです!」

コンパニオンがマイクパフォーマンスで盛り上げるなか、会場がよりいっそう熱くなっている。異様なもりあがりを見せていた。

ブルーカーに乗り込んだプレーヤーは圧倒的な強さで勝ち続け、挑戦者はいなくなっていた。 そして、その光景はまさにMJ自身が望んだものだった。


「な、なんですって」


9人抜きどころか、信じられないほどのテクニックをもって走り抜けていく映像を見ながらMJはわななくように口をひらいた。 しばらくの後にSPEED DRIVINのブースに戻ってきたMJは呆然とするしかなかった。
昨夜、筐体の特性、反応範囲といった癖を見抜きぐんぐんとタイムスピードをあげていった自分がはずかしく思えた。


大型ディスプレイに移されたマシンは、ゲーム性能の限界をきたしたかのように、なんとなくそれは"リアル"には見えなかった。 どこがというのではないが、どことなくぎこちない映像のようで、会場のギャラリーはその光景に限界ラインで走行するプレイとして釘付けとなっている。


どうするべきか、やや放心気味の自分に問いかけるMJ。

と、そこへプライズのぬいぐるみをたくさんぶらさげたオカザキがMJの姿を見つけ、近づいてきた。
「あオーナーいたんですか、これイイでしょ?」得意げに収穫の成果を見せようとするオカザキにMJは向き直りもせずに手を出した。


「オカザキ、スタッフカード貸して」


MJはスカートの裾をひるがえしてレッドカーへ向かって人垣のなかへ分け入っていった。


しばらくすると、どよめきと共にコンパニオンのマイクがはじけるように響き渡る。
「みなさーん!真打登場でーす。 それも、とってもキュートな女性です!! はたして勝算はあるのでしょうか!?」

コンパニオンのアナウンスによってギャラリーの目がMJに注がれる。 MJは気にすることもなく、筐体へと乗り込こんだ。 ドアが閉まるのを見守ったかのようにMJの姿が消えるとざわめきがよりいっそう大きくなる。

以前より対戦ゲームで連勝をしていると謎の女性が乱入してきて負けてしまうことは、ここROG LANDでは有名な話であった。 その謎の女性がオーナーだとはだれも考えもしていないだろう。


「一発勝負だもの、大人気ないのもアリよね」

MJは髪をかき上げ、コツンとギアをセカンドに入れた。昨夜みつけたやり方だった。
カウントが始まり、レッドゾーンの刻んである8000rpm少し入った所でピタリとタコメーターの針をと止め、スタートと共にギアをすばやくローに入れ、床までアクセルを踏みつけた。

キュルッ、ほんのわずかなホイールスピンでフル加速してゆくレッドカーに歓声があがった。





駐車場はどこを見ても区画パターンが一緒で、壁はビルの地肌が処理もされず、ただ黄色やオレンジ色でブロックナンバーがペイントされ、天上にはボイラーや空調ダクト、スプリンクラーなどの配管類が吊るされていて、そこにサイバーパンクな世界を感じるな、などと思いながらデイヴはゴロワーズをくゆらせながら歩いていた。

接近する車を知らせるブザー音とオレンジ色の回転灯が光をクルクルと回すなか一台の車の前で立ち止まるり、デイヴは煙草を床に落とすと踏み潰した。


低くて幅広い、周りの車とは一線を隔したものがそこにあった。
黄土色に近い感じのイエローカラーに塗られたボディの先端にはブルーとブラックの渦の中にトカゲをデザインしたエンブレムが剣と盾を模したフレームにはめ込まれている。

その下には"MASUDA FAVOR"と書かれている。 それを車と相対した形で眺めていると、MJの大声が駐車場内に響き渡った。


「ちょっと、待ちなさいよ!」

ブルーカーをプレイしていた男はわざわざ駐車場にまで追いかけてきたMJになんとも涼しげな顔で答えた。
「何か?」骨太な感じの中肉中背。 一見すると大学生のような服装で自分のものらしき車に歩みよる所だった。

人種的なまざりというのはごく一般的ではあったが、インドシナやネパールといった感じの国々を連想する瞳、そして強烈な印象をあたえるエラ。軽い笑顔でMJの方を見てはいたが、いやに鋭い眼光がうわべだけのものだと語っていた。


「何かですって!? すっとぼけないでよ! なんであんなところで止まったりするワケ? アタシはこんな侮辱初めてよ、、、」

男は目をそらし、小声でやれやれと呟いた後に目を見開き口を開いた。
「対戦者はアンタか、思ってもみなかった所でテールが触れた。 おかげで完全に抜かれていた筈がそうでなくなった。
そんなリードを保って勝つなんて意味がない、だから途中でゲームを棄てた、それだけだ。
人のプレイをどうこう言われる筋合いはないと思うがね?」


なぜ、そんな解りきった事を、とでも言いたいような口調で男は言い放った。
「そんな、、、」 MJは次の言葉を失っていた。 「それじゃあ」男は車のドアに手をかけ、チラッとMJを見た。


「ひとつだけ聞いていい?」


男は次の言葉を無言で促した。


「あなた、名前は」


男は重そうなドアを開けて中へ乗り込むとイグニッションに手をかけながら言った。

「オウガワ、青河諷鎮だ」言い終わるが早いか、キーをひねる。 キシャシャと鋭い音の後、バクンとドアの開閉音がMJの心に響いた。
そして、MJは耳を疑った。



「―――――何これ、まさか内燃機関、、、、、!?」


後ろのフューエルリッドへ目をやると、本来ならば電気を供給するためのソケットリッドが付いているはずが、よく見ると形状が違うことにMJは気付き、SPEED DRIVINで自分が彼と肉迫したワケを知った。 なぜなら、リッドの縁に"Methanol Fueled Car"と彫られていたからだ。


青河はMJに気遣うこともなく車を発車させた。
走り去る丸みのあるホワイトボディのテールには"EXZEST"とかかれたロゴがMJの目に映った。


「エグゼスト、、、あれが」

MJは唇をグッとむすぶと、踵を返して走り出した。





ROG LANDのスタッフ専用通路を足早に進むMJを何事かと驚き、よけるスタッフを気にかけることもなく、ワンピースの上からジャンパーを着込み、ポケットから携帯を取り出すと乱暴に開いた。

「ジャネット? ええアタシ、少し出るわよ、後お願いね」

そのままスタッフ駐車場へと行き、停めてある車のドアを引き上げ乗り込むと、ストラップを引き下げながらドアはカシャリと静かに閉まった。
乗り込むと、助手席の足元に置いたトレイからシューズを取り出し履き替え、ジャンパーのポケットから鍵を取り出し、キーシリンダーに鍵を差し込む。 MJはレザーハンドルに額を押し付け、精神集中を図った。 「いくよ、MJ、、、」


キーをまわし、クーリングファンが動き出す。 カミナリマークの付いた始動ボタンを押す。
カカカと金属音が反響する間もなく地鳴りがあたりに木霊する。 その低音のひどさにまわりの車に付いた盗難防止用の警報機が共鳴するかのように電子音をあげる。

パッと青白いライトが灯り、駐車場から出てきた車はMJからは想像もつかないような真紅をまとったスポーツカーだった。


低い音を響かせながら歩道を横切ると、左へとウインカー。
軽いホイールスピンの後、はじかれた輪ゴムのように真っ赤なボディは駐車場を飛び出していった。


その一部始終を見ていたデイヴは焼きそばパンを大きな口でかぶりつき、もぐもぐと食べながら手狭そうにレザーコートを脱ぎつつMJの走り抜けた方角を眺めながら呟いた。


「何よ、面白そうなことやってんじゃん、ずりぃぜ」


そうした台詞回しがイカスなあとデイヴは自己満足に浸りながらも、黄色いバスタブのようなボディとGeepのビキニトップのようにピンと張られた幌の間から長い手足を折り曲げて器用に乗り込む。

横にはらんだ構造上ドアはなく、そうした乗り手順にデイヴは我ながら格好悪い光景だと思った。


しかし、特殊なエンジンを後部に搭載するが所以のサイドイインテークだった。
キーをまわし、電動ポンプが大量のメタノールを注ぎ込むおとが背中に伝わってくる。 陶酔しながらくるくるとレギレターハンドルをまわしガラスを閉めるとエンジンを点火する。


天鋭くレスポンスのよい咆哮をあげたかと思うと甲高いエギゾウストノートを吹き上げ、車道に飛び出したかと思うと派手なスキール音を撒き散らしながらあっという間に走り去ってしまった。



そう、それはひとつの始まり、そして終わりでもある。




"Shi Drives Me Wild" END / TSUBURAYA MASATONE PRESENTS

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