ソースを作るのはそんなに難しい物ではなかった。
ある程度ソースの枠組みとなる構文、つまり文章を組み立てるルールさえ分かっていればある程度のことはできた。
ソースを作るにはパソコンを使って音声ファイルや動画ファイルを一度データ化させて使う部分だけを切り出し、そこにソースを繋げて行く。
あとはそれを流し込むための「枠」に入れてフォーマットするだけだ。
これをネット上のサーバーにアップロードして携帯で受信をすることで端末とよばれるカプセルにソースの出来具合でいろんな体験をさせてくれるというわけだ。
端末のもととなったものは「XTRY5」なんて言われていた。
当時はネットオークションや海外のオンラインショップでパーツとして手に入れることができた。
俺はその頃パソコンで音楽を作ったりするのが好きだったので、音声ファイルをデータ化したり人が作ったソースをばらしたりしているうちにソースがなんとなく読めるようになって現在に至る。
素材は父が遺した古いフォーマットの音楽や映像などを使った。
今思えばどんな親父だったんだろうと「父の部屋」に行くといつも思う。
父の部屋は行方不明になってからもう8年も経つというのに部屋は物置になることなくそのままにされている。 まあ、物が多すぎて物置みたいな部屋なんだが。
俺はまだ子供だったので親父がふだん何を考えてたとか検討がつかないが、行方不明はじっさいは失踪なんだろうな。 まだ生きてんのかなあ。
そんなことを考えながらも親父の部屋を物色しているとジーンズの尻ポケットで携帯が震えた。 あっと思う間もなく端末が胃の中でじわんとして頭にアラームが響く。 このアラームは塚本だ。
携帯を開くと雑踏のざわつきや人ごみの独特な「におい」が伝わってきた。
「根岸、昨日大丈夫だったか? おまえ今日学校こねえし俺心配になってよ」
ふつう心配してりゃ朝学校に来なけりゃすぐに電話するけどな。
「いや? 大丈夫だよ。 あの後すぐ帰ったから」
俺は親父の机に向い、椅子に腰をかけた。
学校が終わって街をうろついてるんだろう。 一木のはしゃぐ声が聞こえる。
「そうか、昨日は散々だったよな。 あの後俺らも帰ったんだけどよ、根岸あがってこないんで捕まってんじゃねー?とか話してたんだよ」
「矯正施設とかか」
「矯設、そうそう」
「なわけねーって」
書棚から本を手に取り、ぱらぱらめくる。
「そか、ならいいや」
「おう」
「でよ、今日あがってくんのか?」
手に取った本は宇宙コロニーを特集したムックだった。 釣り関係の本に混じっていたのでなんとなく手に取ってしまった。
「ああ、今日はあがるぜ」
「ほんとか、おい根岸あがるってよ」
うっそとか、まじでーなんてはしゃぐ声が聞こえる。
おいおい喜び過ぎですよお前ら。
「じゃあアレできてんだな」
「ああ、じびれるぜ今回のは」
「まじでか、やべー俺勃起してきたぜ」
「ははは想像させんなや、ああじゃあま後でな」
携帯を切った後
俺はなぜこんな本がここにあったのかちょっと気になった。
なぜなら「こんな物はなかったはずだ」ったから。
いつものようにあがると塚本たちはもうあがってきていた。
話題は拾ってきた動画がどれぐらいの時期のものかとか、タレントのネタがどうのとか相変わらずつまらないことを得意げに話す奴らだ。
饒舌すぎて面白いんだが、その貪欲さが俺の原動力でもあるから邪険にもできない。 やっとこ出来たソースをアップロードしたURLを公開するとアクセスがどんどん「つながり」いろんな感情が流れ込んできた。
口コミで広がっているのか、公開直後にこんなすぐにリンクするのは初めてだ。 脳がパンクしそうだ。 疲労感に似た感覚と何日も寝ずにいた睡魔に襲われる瞬間のような感覚が持続する。
端末はリンクしている奴しかアクセスできない仕組みになっている。 が、リンクしている奴の公開するものはアクセスできる。 つまり木が根を張るようにどんどん芋づる式にアクセスはリンクし、繋がればつながるほど感情や情景、においが流れ込んでくる。
今度作ったソースは親父の部屋で見付けた古い音楽と動画をサンプリングして以前「感度」の良かった言及リンクをフレーバーし、最後にコロニーの写真をスキャナしたものをデータで流し込んでやった。
どんどん言及されていく、どんどんリンクが繋がる。 その度に情景がフラッシュバックしては消えてゆく。 音は鼓動と化し映像は感情をよぎらせ、ビジュアルは臭いのようなものといっしょにまとわりつく。
そうだ、思い出した。
いつも終わると忘れてしまうけど、ソースを作りはじめていつ頃からかふいに見える情景がある。
あれがなんなのか気になる。
リアルで見た事があるのだろうか? いやない。 見た? いや臭いなのか? 音?
ローデイングが終わる頃、俺の心臓は高ぶり、体中が汗ばみ、先日セックスをした「月」といた時に嗅いだあの甘い汗のにをいを感じながら高揚していた。
To Be Continued